うわうみウェアハウス
計画の建物は愛媛県の西に突き出た佐田岬半島の中ほど、海から一気に上がった山あいの斜面に貼りつくように建っています。いちばん近くの街でも車で1時間ほどかかるというこの辺りは平らな場所が少なく民家は疎らで、山間にはミカン畑が段を成すのどかな景色を望むことが出来ます。夏涼しく冬は温暖な気候で 別荘地としても多く利用されますが、その一方で天候が変わりやすく急な濃霧や突風が吹き付けるなど 荒々しい自然を時おり見せつけます。
建て主は足に障害を持ち車椅子を利用するご主人とその奥様のお二人。以前ここへ訪れ宇和海の景色に惚れ込んでこの土地を購入されたそうです。敷地のほぼ全てが急傾斜地の森でその最上部にわずかに道路と接する平地を有しています。現地の施行者に心当たりはなくコストの設定も難しい状態でした。地盤、施工性、コスト、バリアフリー、眺望、これらのハードルをクリアできる家は可能なのか不安をお持ちだったようです。
これらの条件を面白がったからだと以前 聞いたことがあります。
このような 傾斜地の上側で道路と接する敷地では コスト面を考えると道路レベルに2階玄関を設けた二階建てとするのが一般的です。これは造成面積が小さく済むため有利となるのですが、車椅子を考えると昇降設備が必要になります。建て主の希望を注意深く聞き取り、ご主人が車椅子で思いのままに移動でき緊急時には自力で出入りができるよう、道路レベルに床を合わせたフラットハウスとしました。このために斜面に複数の鉄骨支柱を立て全体を浮かせることになり結果としてこの建物を象徴する造形が生まれました。また建物自体が景観を乱さないために海を見下ろす道路側からは立面を小さくしミカン畑の斜面に点在する小さな小屋をイメージした外観とし風土に溶け込む佇まいを心掛けました。
工事期間中は松山空港から電車でも車でも2時間以上かかる現場を6カ月間通って監理しました。
写真では伝わりづらいのですが生の自然はあまりにも強大で地震に台風に濃霧にと基礎の施工が終わるまでは大いに皆を悩ませました。完成して建て主が安心して住まわれるのを見て密かに達成感を噛み締めています。以前の家ではご主人が自身で移動できる範囲はかなり限定されていましたが、ドアや通路幅を広々とり床はフルフラットで全ての室へ繋がっているため気ままに移動できテラスへも出入りできます。遠くを往く船を眺めていると一日中だって居られるとおっしゃっていました。その景色は私も工事中に何度も見たものです。ちょっと遠いですが何とかして遊びに行きたいと思います。
PHOTO GEN INOUE
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